フィルムはISO400の感度を常用として久しく、デジタルカメラでは、ISO感度の設定を自由に行うことができるため、開放F値が2よりも明るいような大口径レンズは、もはや不要なのではないかという論評がある。たしかに実用的には何ら問題はないわけだが、それでも私たちは、明るい大口径レンズに魅せられる。
それはなぜか。
 これは大口径レンズの、とくに開放値近辺の絞り設定による写りの個性、特異性を求める人が多いからであろう。紙のように薄いピント、前後の奥行きを感じさせるボケなどが、写真独自の表現に繋がるからである。
 このノクトン50mmF1.1は、現時点で考えられるだけの技術を搭載した大口径レンズ。その開放時の描写は、ピントの合焦点はあくまでシャープでハロが小さく、前後のボケにはクセが少ない優れたもの。またこのクラスのレンズにありがちな、周辺減光も軽微だ。本レンズはコシナ技術陣が送り出す究極の「超」大口径レンズであり、言い換えればフラッグシップレンズと言っても間違いではないだろう。
 ベッサシリーズをはじめとする、レンジファインダーカメラで本レンズを使用すると、ファインダーはパンフォーカスにみえるため、あたりまえのことだが撮影時にはボケの大きさ、雰囲気を味わうことはできない。最初はファインダー像と出来上がりの写真の差異に驚くことだろう。しかし、これは欠点ではなく、あくまでも写真は撮影者の想像と創造によって、成り立っていることを思い知らせてくれるのである。
 ただし本レンズのピント合わせは簡単ではない。被写界深度が非常に浅いため、撮影者が考える理想とするピント位置にフォーカスを送るには、それなりの慣れと経験則、コツが必要だ。
 しかし、高性能のカメラを選択すれば、この問題はすぐに解決する。本レンズの性能を最も引き出してくれるカメラはフォクレンダー・ベッサR3A、R3Mだと思う。
 両機ともに、現行のレンジファインダーカメラとしては最高の等倍ファインダーを採用しているからだ。ファインダー像がシャープであることは当然のこと、ファインダー像の大きさは、肉眼で見たものと大きさが同じなので、出来上がりの予測をつけやすい。また高い距離計精度によって、開放絞り値を使用する場合にもピントを正確に合焦させることができる安心感がある。この組み合わせは容易に私たちを超大口径の世界に誘ってくれるはずだ。

フォクトレンダー・ベッサR3A ノクトン50mmF1.1 絞り開放 AE プロビア100F(共通)
モデル:根本香織