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 照明を抑えた実験室のような空間で、青紫の光をレンズに照射しながら測定器のモニターに表示された十字線を照合する。上の写真は、貼り合わされたレンズそれぞれの中心を見極めながら、それらが正確に一致する位置になるように調整している様子です。まだ接着剤が硬化していない状況で、指先の微妙な動きでレンズの貼り合わされた面を回転させながら光軸を整えていきます。この工程は“バルサム貼り合わせの心出し”と呼ばれています。オールドレンズに興味のある方は、“バルサム切れ”あるいは“バル切れ”という言葉を見聞きしたことがあるかと思います。これは、製造して長期間が経過したレンズの接着面が剥離していることを表す中古カメラ業界の用語です。

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 光学性能を追求する写真撮影用のレンズは、複数枚で構成されています。そして多くの場合、貼り合わせたレンズが含まれています。上の構成図では2枚の貼り合わせレンズが3種類用いられているので3群6枚と表記されます。かつてレンズの貼り合わせにはカナダバルサムなど天然由来の樹脂を用いていました。熱可塑性と光学ガラスに近い屈折率からレンズ用の接着剤としてバルサムは採用されてきましたが、現在では作業性や耐候性などの問題から使用されていません。バルサムという言葉だけは残っていますが、実際は紫外線で硬化する特殊な接着剤などが用いられています。冒頭の写真で青紫の光が当てられているのは、心出ししながら接着面を硬化させていくことが目的だったのです。

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 心出しの前に行われている、2枚のレンズを貼り合わせる作業にも熟練の技が要求されます。貼り合わせるレンズの表面を目視して美観をチェックし、凹面の中心に一滴の接着剤をのせる。手際よく2枚を貼り合わせたら接着剤の中にある微細な気泡を外周へと追い出しながら接着面の直径を拡げて外周まで均質に延ばす。人の手によって作業しているのは、接着面を限界まで薄くするには人間の手の感覚が必要だからです。接着剤の厚みを抑え、不要な屈折を排除していく。究極的な目標を掲げ、どれだけ手間がかかってもハイエンドたる品質を作り上げる。この思いを実現化する製造現場のスキルが、私たちコシナの強みであり誇りでもあるのです。

 

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