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 負圧をかけて吸引固定され、モーター駆動される轆轤(ろくろ)の上で静かに回転しているレンズ。心取りをし、洗浄されたその端面は磨りガラス状です。そこに反射防止を目的とした特殊な光学塗料を塗布する工程を“スミ塗り”と呼んでいます。044(レンズの中心を見極め、 貼り合わせる)に登場したバルサムと同様に、草創期にこの作業は和墨を使用していたことから“スミ”という言葉が現在も使われています。均質かつ美しく塗るには熟達した人の手が不可欠で、機械化するのが困難な工程です。回転するレンズの端面にペイントチップを軽く押しあて、塗料をのせていく。精密光学部品の製造現場でありながら、伝統工芸の作業風景を見ているような、静かな緊張感が作業スペースに漂っています。

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 同じレンズでも、スミ塗りの有無で光学的な特性は大きく変化します。特に写真撮影用レンズなどの光を入力するデバイスでは、撮影するイメージの範囲外から入ってくる斜めの光線がレンズの端面で反射し、画質を低下させることを防ぐのにスミ塗りは有効です。こうした実用的な面に加えて、完璧な仕事でスミ塗りされたレンズの方が削ったままのテクスチャーで端面が白く濁ったレンズよりも見た目に美しいものです。スミ塗りは、まるで古井戸の底を覗き込んだときのような神秘的な印象をレンズに与えてくれます。いわば、目もとから強く印象づけるアイメイクのような役割も果たしているのです。

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 写真撮影用の交換レンズにおけるスミ塗りでは、レンズの端面を塗るだけでなく、端面から0.2ミリ程度レンズ表面に及んだ部分にも塗料をのせるのが特徴です。これはアイラインを強調してレンズの外観を良くすることにも貢献していますが、美的な効果よりも光学性能の向上を主な目的としています。ごく僅かにレンズ表面まで反射防止塗料を塗布することで絞りの効果が生まれ、画質に悪影響を及ぼす斜めの光線をカットする役割を果たしてくれるのです。熟練工による極めて微妙な手加減でスミ塗りする技法が、コシナの製造するハイエンド光学デバイスの優れた性能と美観を支えています。

 

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