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島田さんがコシナに入社したのは2006年。光学設計部門に配属され、最初の3年はプロジェクター用レンズ、それから10年ほど交換レンズの設計に携わってきた。そのキャリアの中で異彩を放っているのが、人工衛星に搭載したスターセンサー用レンズだ。


「人工衛星に搭載したレンズは、交換レンズと同等のタイプとサイズで設計をしていますが、話を進めていく中で温度変化を気にしているのが分かりました。宇宙空間では太陽の直射で100℃まで上昇し、影の部分ではマイナス100℃と温度変化が大きい。その時ピントがズレたらいけないのでどうするか? という課題に応えたのは、温度変化のロバスト性を求められるプロジェクターレンズの技術でした」

人工衛星用以外に、今まで設計してきた交換レンズを教えてください。

「フォクトレンダーではマイクロフォーサーズのF0.95シリーズ全部ですね。VMでは21ミリのF1.8。ヴィンテージの35ミリF1.7。沈胴の40ミリF2.8もそうです。Eマウントでは40ミリF1.2やマクロアポランター65ミリF2が代表作です。ZEISSも望遠系から広角まで、大口径レンズを中心に設計をしてきました」

アポランター50ミリF2は、企画段階から超高性能を狙っていたと聞いています。通常のレンズ設計と比較して特に注意した点はありますか?

「超高性能レンズは、普通の性能のレンズを設計するよりも厄介ですね。やはり解像が高いとピントが立つ=ピントが合っている部分の幅も狭くなってしまうので、そうすると偏心などの製造誤差が影響して性能が出せず、実際に作るのも大変です。そこで工場でも性能が出しやすいことが求められます。レンズの中心を厳密に合わせる調心機構や、レンズの間隔を製造段階で調整したい部分はここだから、調整できるようにしてねと機構設計にバトンを渡します」

設計性能の高さを机上の空論にせず、製品に落とし込む方策も含めて光学設計者は頭をひねっているのですね。光学的な構成としてユニークな部分はどんな点でしょうか?

「前群は非球面レンズ以外、全部が異常分散性ガラスなんです。片っ端から本当に色に気をつけて色収差をなくそうとしたガラスの使い方をしています。10年前にはなかった新しい硝材も結構入っていますね。あとは非球面を入れたのでコマ収差がなく最周辺まで解像します。だから星の写真を撮ってもご満足いただけると思います。低周波から高周波まで、性能が高いレンズですね」

レンズ設計の最初の段階で基本的なレンズ構成を決めると思うのですが、その決断とはどのように行われるものなのでしょうか?

「ゼロから発想するということよりも、過去の製品からタイプを設定する場合が多いです。今回のアポランター50ミリF2の設計は、マクロアポランター65ミリF2が出発点になっていて非球面レンズがもう1枚加えられています。マクロアポランター65ミリF2は私が設計したレンズですが、その構成はマクロプラナーをベースに、性能的にはOtusをベンチマークとして、性能を上げるべく1枚抜いたり足したりしながら最終的に今の形になったという経緯があります」

やはり、レンズ設計に最も重要なのは数学的なセンスなのでしょうか?

「数字を見ていてよければいいかというと、必ずしもそうではありません。レンズの並びを見て、もう少し綺麗にしたいなとか、そういう感覚はあったほうがいいと思います。そのほうが写りも綺麗な気がします」

それは数学的センスではなく、もっと別の感覚ですか?

「あえて申し上げるなら、美的センスですかね。レンズのタイプを見ていて、綺麗だなとか変だなという感覚は重要だと思います。無理した設計は、レンズ構成の醜さに出てきます。具体的には、レンズの断面図を見ていると光がどのように通るかが大体わかってくるのですが、その光の道筋が綺麗か? それが問題なのです。あるレンズにだけ負担がかかっていると光の通りかたに無理が生じます。うまくいかない時は無理矢理にでも性能を出さないといけないので、特定のレンズに負担がかかったりしているんです。それは誰が設計したレンズを見てもわかります」


島田さんが見て、これは光の道筋が綺麗だと思うレンズのベスト3は?

「3本だけ選べというのは難しいですが、マイクロフォーサーズの25ミリF0.95は各エレメントに負担の偏りがなく、素直な光の流れが読み取れます。VMの75ミリF1.5もシンプルで美しいですよね。もちろん、このアポランター50ミリF2も、かなり綺麗だと思います(笑)」


 

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