COSINA

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人の手による、レンズの“平面擦り”

  • コシナこだわりの理由

 回転するターンテーブルの上を水で濡らし、その中心部分から外周に向けて水で溶いた粉末状の研磨材を少しだけつけた指先で触れる。すると渦巻き状の模様を描きながら研磨材はターンテーブルの表面に拡散していきます。そこにレンズを押し付けることで、光軸と直交する平面を美しく仕上げることができるのです。この工程は“平面擦り”と呼ばれ、自動機ではなく人の手で作業が行われています。上の写真は、飯山ファクトリーでの“平面擦り”の様子です。ターンテーブルをどの程度まで濡らすのか? 研磨材の分量は? レンズを押し付ける力の加減と時間は? これらの問いに対するマニュアルはありません。

“平面擦り”で仕上げたレンズ

 ターンテーブルに押し当てる部分以外を守るべく、黒い保護材が塗られたレンズ。刃物を砥石で研ぐごとく、レンズの端面を完全に平滑で美しい状態にしていきます。仕上がりが均質な肌目になったかどうかの判断は人間の目視が基本です。コシナのハイエンド交換レンズには、光学的な性能という観点においてはまったく問題のない精度で作られたレンズに、あえて“平面擦り”の工程を加えている場合があります。ベテランの担当者から新人へと脈々と受け継がれている手仕事の感性と技が、“平面擦り”の現場を支え続けています。

ハイエンド交換レンズの構成図

 このレンズ構成図をご覧になって、“平面擦り”の作業をしていたのがどのレンズなのか判るでしょうか? 答は最初の凹レンズです。特にレトロフォーカスタイプと呼ばれる一眼レフ用の広角レンズの第一面は直径も大きく、レンズを正面から覗き込んで観察すると光軸に直行する端面の仕上げが拡大されて見えるので、美観に注意が必要です。もちろんレンズを正面から覗き込んでしまっては写真を撮ることはできないので、写りに影響する部分ではありません。とはいえ見た目に完璧な美しさを求めるユーザーに対して真摯に応えることも重要であり、美観も性能の一部であると私たちコシナは捉えています。それこそが手間とコストを惜しまずに“平面擦り”の工程を加えている理由なのです。